2007年、私はオーストラリアでの通信系のフリーランス案件を終えたばかりでした。次のクライアントはヨーロッパにいましたが、すぐに帰国する代わりに、東南アジアに滞在しながらリモートで仕事を続けてみることにしました。それが、私にとって初めての「デジタルノマド体験」でした。そしてその後も、このライフスタイルは私の人生に深く根付くことになったのです。
デジタルノマドって何?
「デジタルノマド」という言葉の意味は人によって少しずつ異なりますが、私にとっては「場所に縛られずに仕事ができる自由な働き方」。今ではスペインに拠点を置きながら、2〜3週間の短期ワーケーションや、最大3ヶ月にわたる長期滞在も含めて、家族とともに世界中を旅しながら働いています。過去15年間で滞在した国は60カ国以上にのぼります。
家やローンに縛られることなく、必要があればすぐに移動できる柔軟性が私たちのスタイル。他にも、バンで暮らす人、サーフィンや「終わらない夏」を求めて移動する人、子どものために旅を通じた教育プログラムを組む家族など、さまざまな形のノマドライフがあります。
誰でもなれる? デジタルノマドという選択肢
これまでに、年齢も職業も国籍も違う多くのデジタルノマドと出会ってきました。会社員としてフルタイムで働きながら旅する人もいれば、フリーランスとして複数の仕事を掛け持ちしている人もいます。若い単身者だけでなく、パートナーや家族、ペットと一緒に旅をする人も増えています。
私はこのライフスタイルに魅了され、LinkedIn Learningでデジタルノマドに関する講座を開設し、世界中のノマドたちの成功ストーリーも紹介してきました。そこからわかったのは、「デジタルノマドになるのに特別な条件は必要ない」ということ。あなたが20代でも60代でも、独身でも家族持ちでも、会社員でもフリーランスでも、この自由な働き方は意外と手の届くところにあるのです。
ステップ1:自分に合った渡航先を選ぼう
アイスランド?インドネシア?それともポルトガルやパナマ?
デジタルノマドとして旅を始めるなら、まずは「どこで暮らし、働くか」を考えることから始まります。世界中には無限の選択肢があるからこそ、自分の希望やライフスタイルに合った場所を選ぶことがとても大切です。
1. 法的に滞在・就労できる場所であること
まず第一に確認すべきは、「その国に合法的に滞在・仕事ができるかどうか」です。以下のようなポイントを事前にチェックしておきましょう:
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パスポートの有効期限
国外に出るには当然ながら有効なパスポートが必要です。出発前に期限切れになっていないか必ず確認し、必要であれば余裕を持って更新しておきましょう。 -
ビザの種類と取得
滞在期間や目的に応じて、観光ビザ・デジタルノマドビザ・就労ビザなどが必要になる場合があります。最近では、ノマド向けに特化したビザを発行する国も増えてきています。 -
海外旅行保険・医療保険の加入
一部の国では、入国時に保険加入の証明が必要なケースもあります。現地の医療制度や緊急時の対応を考えて、信頼できる保険に事前に加入しておくと安心です。 -
税務面の確認
デジタルノマドは「どこで税金を払うか」という点がとても重要になります。例えばEUでは、1年の大半を過ごす場所に「税務上の居住地」を定める必要があります。会社員かフリーランスかによっても税務区分が異なるため、自分に合った申告方法を理解しておきましょう。場合によっては専門家への相談もおすすめです。
2. 自分にとって安全な場所かどうか
法律的にはOKでも、文化的・社会的背景から「安心して過ごせるか」は別問題です。たとえばLGBTQ+の方にとって、国や地域によっては差別や法的リスクがある場合もあります。あるノマドは「夫と一緒に旅する中で、どうしても滞在を避けたい国もあった」と語っていました。
同様に、女性のひとり旅で不安を感じる地域も報告されています。アフリカや中南米、アジアの一部では、夜間の外出や服装に関して注意が必要なケースもあります。
あなたの性別・国籍・宗教・価値観などによって、安全性や快適さは変わってきます。行き先を選ぶ際は、現地の文化・法律・生活習慣をあらかじめ調べておくことを強くおすすめします。
3. 「行きたい」と思える場所かどうか
そして最後は、もっとも楽しい部分です。あなたはどんな場所で暮らしたいですか?
- 海辺のリゾート?それとも都会の喧騒?
- 言葉が通じやすい国?語学にチャレンジしたい国?
- 食文化やイベント、アクティビティは自分に合っている?
サーフィンが好きならバリ島、ノマドが多い場所がいいならクロアチア、語学を学びたいならスペインやフランス、季節ごとのイベントを楽しみたいならドイツや中国も魅力的かもしれません。
このステップは、自分の価値観や興味を見つめ直すチャンスでもあります。「どこに行けるか」だけでなく、「どこに行きたいか」。その視点が、ノマド生活をより充実させてくれるはずです。
ステップ2:上司やクライアントの理解を得るには?
「デジタルノマドとしての一歩を踏み出そう」と決意し、法的・安全面での準備が整ったら、次に直面するのは**“仕事をどうするか”**という現実的な課題です。つまり、今の仕事を続けながら旅をするには、上司やクライアントの理解を得なければなりません。
まずは「リモートワーク」の承認を得よう
まだ現在の職場がリモートワークを導入していない場合、その働き方が現実的かどうかを検討する必要があります。そして、いきなり上司に「旅しながら働きたいです!」と伝えるのではなく、しっかり準備をした上で話を進めましょう。
以下のステップを踏むとスムーズです:
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業界のリモートワーク事例を調査する
同業他社や競合がどのようにリモートワークを導入しているか、成功事例をリストアップしておくと説得力が増します。 -
自分の業務における効果を説明する
「リモート環境でもパフォーマンスを維持・向上できる」ことを具体的に説明します。たとえば、「通勤がなくなる分、集中力が高まり生産性が上がる」など、定量的なデータを交えて伝えましょう。 -
具体的なリモート勤務のプランを提示する
勤務時間・使用するツール・進捗の報告方法・必要な機材などを含んだ詳細な提案書を準備し、フィードバックをもらう形で進めると相手にも安心感を与えられます。
次に「どこからでも働ける」状態を目指す
仮に現在リモート勤務が認められていたとしても、「どこにいてもOK」という状態になるにはもうひとつハードルがあります。以下のような要素が関わってきます:
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時差の問題:チームやクライアントとのリアルタイムなやり取りが必要なら、近いタイムゾーンの国を選ぶか、勤務時間を調整する必要があります。
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機密情報の取扱い:特に政府や大企業との契約業務がある場合、会社支給のPCを海外で使用できないケースもあります。
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会社のポリシーや税務・法務的な制約:ある国では労働法や税制度の関係で、企業側が「その国からのリモート勤務」を許可しにくいこともあります。
こうした懸念は、事前に人事・法務・IT部門とも話をして、何が問題になり得るのかを把握することが重要です。 その上で、懸念点に対して以下のような対策を用意すると、前向きな話し合いがしやすくなります:
- タイムゾーンの近い国を選ぶ
- まずは2週間〜1ヶ月など短期間からスタート
- 海外が難しければ国内の別地域から試してみる
- トライアル期間を設け、問題なければ継続を提案する
それでもNGなら、どうする?
もしどうしても上司やクライアントの理解が得られなければ、新しい働き方を探すという選択肢もあります。
- 同じ会社内でより柔軟な部署に異動
- リモートOKの企業に転職
- フリーランスや契約ベースで仕事を得る
実際、多くのデジタルノマドがフリーランスへと転向しています。ただし、雇用形態がどうであれ、「報酬を支払う人=上司・クライアント・パートナー」との信頼関係と期待値の調整は不可欠です。
**一方的に「旅に出ます」と宣言するのではなく、相手の立場も尊重しながら、慎重かつ丁寧に話を進めましょう。**それが、デジタルノマドとして長く活躍していくための第一歩です。
ステップ3:細かい準備を忘れずに ― デジタルノマド生活を成功させるために
デジタルノマドとして働く上で、安全性・合法性・仕事の可否といった「大きな要素」はもちろん大切ですが、実はそれだけでは足りません。
現地で本当に快適かつ効率よく働くためには、「細かい準備や配慮」が欠かせないのです。渡航時期や行き先が決まったら、次は以下のポイントをしっかり考えてみましょう。
✅ ワークスペース(作業環境)
たとえば、講演やオンライン研修を行う仕事の場合、高速インターネット・静かな個室・信頼できるビデオ会議環境は必須です。人によっては、以下のような環境・設備が必要になるかもしれません:
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人間工学に配慮したチェアやスタンディングデスク
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ノイズキャンセリングイヤホン
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外付けモニターや照明機材
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高性能なPCや特殊なソフトウェア
事前に自分の仕事に必要なものをリストアップし、持参するもの・現地で調達するものを区別しておきましょう。
企業勤めでITチームがある場合は、海外から利用可能かどうか・VPNやソフトの制限がないかを確認しておくと安心です。
✅ インターネット環境
ほとんどのデジタルノマドにとって、安定したインターネット接続は命綱です。
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宿泊先のWi-Fiが本当に使えるか、事前にスピードテストやレビューをチェック
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万が一に備えて、近くのコワーキングスペースやカフェもリサーチ
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現地SIMカードやモバイルWi-Fiの導入
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公共Wi-Fiを使う場合は、VPNを事前に設定してセキュリティ対策を
ネットが不安定だとストレスや仕事の遅延にもつながるので、出発前にしっかり準備を。
✅ お金と支払い手段
旅先で財布をなくした、カードが使えなくなったなどのトラブルは意外と起こりがちです。以下のような備えをしておきましょう:
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海外対応の予備のクレジットカードを別の場所に保管
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少額の**現金(現地通貨)**を携帯しておく
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銀行に海外渡航の連絡をしておくことで、不正使用扱いによる停止を防ぐ
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ATM手数料を抑えられる提携銀行やサービスを調べておく
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Apple Payや現地で使えるモバイル決済アプリ(Alipayなど)の有無も確認
「いざという時にどうするか」を想定しておくだけで、かなり安心です。
✅ 健康・医療
最低限の保険加入だけでなく、本当に必要なサポートが受けられるかも確認しましょう。
- デジタルノマド向けの国際医療保険プラン(例:SafetyWing、IMGなど)を検討
- 英語が通じる病院や専門医の有無をリサーチ
- 常用薬がある場合は、必要な量を余裕を持って持参
- 現地で薬の入手が可能か・処方箋が必要かも要チェック
- 日本では簡単に買える市販薬が現地では手に入りにくいこともあるため、風邪薬・胃薬・絆創膏などは多めに用意
医療面の準備は、体調を崩した時にパニックにならないための保険でもあります。
ステップ4:仲間を見つけよう ― ノマド生活における「つながり」の大切さ
デジタルノマドというと、「自由」「旅」「リモートワーク」といったキラキラしたイメージが先行しがちですが、実は見落とされがちな大きな課題があります。
それは――孤独と孤立です。
どれだけ旅が楽しくても、やはり「話せる相手」「共有できる仲間」がいないと、だんだん精神的に疲れてしまいます。だからこそ、意識的に人とつながる行動がとても大切なのです。
🌐 オンラインで仲間を探す
まずは以下のようなプラットフォームから、現地のイベントやノマドの集まりを探してみましょう:
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Meetup.com:趣味やテーマ別のイベント検索に最適
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Nomad List:ノマド向けの都市情報やコミュニティ交流
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現地のFacebookグループやX(旧Twitter)などのSNS
イベントが見つからない場合は、自分で「〇〇に滞在中のノマド会」を主催するのも◎。気軽なコーヒーミートアップでも十分価値があります。
🧘♂️ 趣味をきっかけに人とつながる
現地のサーフィンスクールに通ったり、ヨガスタジオに参加したりすることで、自然な形で現地の人や他の旅行者と知り合うことができます。コワーキングスペースが定期的に主催しているイベントにも積極的に参加してみましょう。
👨👩👧 ファミリーノマドの場合
もし子ども連れで旅をしているなら、同年代の子どもと関われるコミュニティはとても重要です。筆者自身、娘が生まれてからは、訪れる土地ごとに家族向けのつながりを意識的に築くようにしています。
「つながり方」は人それぞれです。
でも誰にとっても、何かしらの形で「人との関係」を築くことは必要。
あなたにとって心地よいつながり方は何か? それを意識して探してみてください。
ステップ5:地域に貢献しよう ― 「与えるノマド」になる
最後に、とても大切なことを忘れずに。
ノマド生活は、自分の自由のためだけのものではありません。
私たちは旅をすることで、その土地の自然・文化・社会に少なからず影響を与えています。だからこそ、「自分が受け取るだけでなく、何を与えられるか」という視点を持つことが、真のデジタルノマドには必要です。